VN-xx02シリーズやVN-L5シリーズの終段増幅回路はE級増幅回路を採用し、高効率で消費電流や素子の発熱もかなり抑えていますが、E級ネットワークの性質上狭帯域で多バンド化は困難です。
そこで主に海外の事例をたどってみるとD級増幅が目にとまり、実装実験を試みました。(ここでいうところのD級はオーディオアンプのD級アンプとは異なります。追記:オーディオ用のD級もPWM変調をかけているVMCDの一種と記載されている文献がありました。)
実験前にまずE級とD級の回路と動作をおさらいします。
E級は図のようにスイッチング素子の出力側にE級ネットワークという一つの共振回路を形成して素子のオンオフで各々素子にかかる電圧と電流をE級ネットワークで共振させゼロボルトスイッチング(ZVS)を実現しスイッチング損失を抑えて効率を高める方法です。
ひとつは電圧モードVoltage Mode Class Dで、素子がオンの時流れる電流が半正弦波状となりZVSとなった直後素子がオフとなりその間は電圧が最大になります。
もうひとつは今回実装した電流モードCurrent Mode Class Dで、素子がZVS後オフの間に電圧は半正弦波状となって再び電圧ゼロになったときに素子がオンとなり、オンの間流れる電流は最大になります。
D級増幅回路を実装している例はフィンランドのJUMA製135kHz、475kHz送信機、TX-136、TX-500の50W出力の終段回路やネットで見つけた400W級のRFパワーアンプくらいしかありません。
TX-136やTX-500を所有しているのでその高効率ぶりは体験していますが、今回E級プッシュプルを採用しているVN-L5シリーズにも適用できないかということで、CMCD化実験をしてみました。
上はVN-L5の終段E級プッシュプル増幅回路です。L1-C10、L2-C11がE級ネットワークなのでこれらを外してQ4,5のドレインをT3の3ピンと6ピンに各々直接繋げます。
実際のVN-L5オリジナルTX部の画像です。基板の右上の2つの小さなトロイダルコイルとその右側にある水色の四角いフィルムコンデンサを取り除き下の画像のように各FETのドレインを出力トランスに直接接続しました。
出力トランスに2次側の巻き数を半分に減らすことで、電源電圧13.8Vで14~15W程度の出力を得ましたが、出力トランスのコアの発熱が著しく長時間の出力にはどうやら耐えられそうにありません。そこで出力トランスをコンベンショナル型から伝送線路トランスに巻き方を変更することで出力トランスのコアの発熱は抑えられました。
またRFCも一つのコアにまとめる実験も行いましたがRFCコアの発熱が著しいため個別に用意するようにしました。
下の回路図が最終的なCMCD化終段回路です。
これは160m版も80m版も回路は同一で、LPFの定数のみバンド別となっています。
上の画像は片方のFETのドレイン電圧波形をオシロスコープで観察したキャプチャでおおよそFETオフ時の電圧は弧を描いています。
電流波形は今回観察できていませんが連続出力でもFETの発熱が緩やかなのでおそらくZVSにはなっているでしょう。
念のため160m版、80m版の出力波の高調波スプリアスを測定すると、2次3次高調波はいずれも-50dBc以下と新スプリアス基準はクリアしているようです。
80m版の高調波スプリアス |
160m版の高調波スプリアス |
ちなみに効率はおよそ75%前後とE級増幅回路と遜色ない程度でした。
そうゆうわけで今回のCMCD化実験ですが、いくつかのポイント(RFCと出力トランスなど)を押さえることで、LPFの切り替えによる多バンド化の可能性を少しばかり見出すことができました。