136kHz帯では通常設置可能なアンテナの利得は条件が良くても-20dBi前後になるため、単純には空中線電力が50WであってもEIRPは500mW以下のQRPpになってしまいます。
ましてや数WならばEIRPは数10mWなので、余程受信側の条件が良くなければCWでの交信は非常に厳しくなります。
というわけで今回は475kHz帯の申請も見越して出力20Wを目指したE級アンプの実験を行いました。
前回の実験で使用した2SK2796LというMOSFETを今回も採用しますがVDSSが60Vと低く、そのため電源電圧15V以下という条件を満たさないといけません。
低電圧で高出力を得るには、負荷インピーダンスを下げなければいけないのでインピーダンス変換トランスが必要になります。
電源電圧12VではLPFの挿入損失分などを踏まえ、2Ωで25W出力を想定しました。
で、次に回路図です。
今回はプッシュプル増幅回路にしました。理由は、偶数次高調波が抑えられることによってLPFの設計や実装が楽になると考えたからです。136kHz帯という非常に低い周波数のLPFは設計よりも実装が大変で、特にLはコイルも大きくなって巻くのも一苦労です。なるべくコンパクトにしたいので次数も必要最低限にとどめておきたいと考えています。
さておき、各定数はCQ出版社発行POWER ELECTRONICS SERIESの書籍を参考にして算出し、ドレイン電圧波形などを観測して決定してました。計算式などは書籍を参考にしてください。
ドライバは例によって汎用的でコストの安いロジックICでまかないました。プッシュプルなので各FETのゲートには180度反転信号を与えるため、一方にインバータを繋げています。また、信号送られていないときには両方のゲート電圧を0にするために各々NANDを挿入し信号入力時のみゲート電圧を変化させるようにしています(この辺は良くやられている手法だと思います)。最後にFETドライブ用に各々3パラ接続したインバーターを介してFETを駆動します。
E級フライホイールは各FETのドレインソース間のCとインピーダンス変換トランス前の2つのLで構成されます。シングルとは異なり、FETのオンオフで共振周波数は変わらないところがミソです。
最終的にインピーダンス変換機能を兼ねた出力トランスで180度反転合成しインピーダンス変換されて出力されます。巻き数比は1:5でインピーダンス変換比は1:25になります。
この回路をブレッドボード上に組み上げて各FETのゲート電圧、ドレイン電圧、出力波形をオシロスコープで、高調波はスペアナで観察してみました。
左の2つのICはドライブ用ロジックIC、中央付近にFET、フライホイールのL、出力トランスに続きます |
FETの供給電圧を5Vと低めに設定して各波形を観察します。
ドライブ出力波形です。上下反転しているのが分かりますね。オーバーシュートが目立ちます。電圧はキッカリ5V、周波数は136.5kHzです。
片方のゲート電圧とドレイン電圧を見ています。下のドレイン電圧曲線は最初計算値だと低い共振周波数のカーブを示していたためドレイン-ソース間のキャパシタを減らして共振周波数を合わせてみました。ただし、曲線の最下点が0Vよりも高いことからおそらく負荷抵抗とのマッチングがずれているようでした。これはインピーダンス変換件出力トランスのインダクタがE級ネットワークに影響している可能性が考えられます。
5Vで出力は約6Wほどでした LPF通さなくても正弦波に近いです |
マッチングのずれなどによるスイッチング損失のためか、増幅中FETパッケージが熱くなります。また低電圧で出力を稼ぐためドレイン電流が多くFETのオン抵抗での損失による発熱も考えられたため、各々のFETを2パラ接続してみたところ発熱が和らぎました。
次に電源電圧を13.8Vに上げ、60dBのアッテネータを通しAPB-3スペアナモードで出力レベルと高調波をチェックしました。
ブレッドボードの配線のためフロアが騒々しいですが、基本波は60dBのアッテネータ挿入時で-13.9dBmで計算上+46.1dBmでした。実際はもう少し低いです(オシロスコープの計測で27W程度)。高調波については2次高調波が基本波に対して-31.41dBと3次よりも抑制されているというプッシュプル増幅の特徴が出ています。そのほかの偶数次高調波も明らかに低く抑えられています。これならLPFの設計も余裕が出てくると思います。
この回路では出力トランスのインダクタの影響などをみて改善する必要がありそうです。
あと10A程度の電流計を調達して効率を測定しなくては(汗)
こんばんは。136KHzのE級アンプですね。このくらいの周波数だとSW電源の周波数と同じか低いくらいなのでデバイスは色々ありそうですね。プッシュプルは面白いですよ。トランスが効率的に利用できるので小型化にはもってこいです。
返信削除フライホールのインダクターは1個で済ますこともできます。参考までに私の回路を示します。
結果を楽しみにしています。
http://honda.way-nifty.com/photos/uncategorized/2016/02/23/v2_trx_final.png
本田さん、おはようございます。コメントありがとうございます。
削除プッシュプル初挑戦です。動作的に非常に興味がありますね。実際組んでみるとほんとうに偶数次高調波が抑制されているので面白いです。
電源用の安いFETがたくさんあるので、いろいろ吟味しようとたくらんでいます(笑)
回路図もありがとうございます。L2がフライホイールインダクタでしょうか。出力トランスではなくフライホイールに電源を重畳させているのかなとお見受けしましたが、なかなか面白いです。
なんとかうまくいくようでしたら懇親会で実物を披露させていただこうかと思います。