2017年4月29日土曜日

mcHFの帯域外不要輻射についてちょびっと考察

mcHFの帯域外スプリアスの件、連休後に調査しようと思いましたがちょっとモヤモヤするので(笑)アタリはつけておこうと少し突っ込んで調べてみました。

mcHFのブロックダイヤグラムを読んでみると、送信の流れとしてはまずDACで生成されたベースバンドIQ信号と、この手の定番であるプログラマブルクロックジェネレータSi570にフリップフロップ7474で生成した局発IQ信号をミクサで混合してBPFを通して電力増幅ステージで5Wに増幅されます。


 回路図では送信ミクサからBPFへ都合よく0Ωチップシャントで繋がっており、いったん除去してピンを立ててAPB-3スペアナで信号の周波数スペクトルを観察しました。

BPFの入り口のシャントを外してミクサ出力を取り出します
 CWモードでTUNEボタンを押して連続送信とし、スキャンします。


 センターの目的信号より750Hzほど高く、40dBほど低い柱とさらに同じく750Hz高いところに小さい柱が見えます。次にドライブレベルを最大にしてみます。


 目的信号のレベルは高くなりますが右隣の柱のレベルには変化がなく、さらに右の柱のレベルは高くなっています。まわりもなにやらざわついています。

ドライブレベルを戻して、今度は設定メニューにあるIQバランス調整をいじってみます。


 スパンを拡げると新たに3kHz毎に柱が見えます。IQバランスを崩してみると・・・


 目的信号の柱の2つ右の小さな柱のレベルが高くなっています。しかし1つ右の柱のレベルには変化がほとんどありません。

 DAC出力と局発出力は直接観察していませんが、目的信号のひとつ右の柱は局発漏れ成分でもう一つ右の柱は逆サイドバンドであろうと想像しています。おそらくCWモードでは750HzのIQ信号と局発を混合して目的信号を発生させているのだろうと思われ、3kHz毎の柱と、IQバランスを崩したときの間に見える小さな柱も、相互変調による不要信号ではなかろうかと考えています。

そして、BPFへのシャントを付け直してアンテナ出力からの波形を観察すると・・・


ミクサ出力にスペクトルが似てますね。原因はミクサ周辺が主のようです。

他のモードについても観察してみました。

逆サイドバンドが分かるようにIQバランス崩してます
SSBモードのツートーン入力によるスペクトルです。CWモードとは異なり約10kHz下に局発リークが観察されます。


 AMモード(ツートーン入力)です。まぁこれはこんなものでしょう。


 最後にナローFMモード(ツートーン)ですが、SSBとほぼ同じく約10kHz下に局発リークが見られます。

【現時点での結論と対策について】
帯域外不要輻射については送信ミクサの局発リークが主な原因と思われます。このSDR送信部はPSNタイプのSSBジェネレータと同様な構成であり、クリスタルフィルタによるキャリアや周囲の不要信号のカットがまったく期待できないため、その分ミクサの性能が厳しく要求されます。このミクサも局発リーク抑制は40dB以上確保できているので決して悪くはないですが、そのまま増幅されかつ複雑な相互変調によって帯域外不要輻射が目立ってしまったようです。
 対策としては、ミクサのDCオフセットを調整して局発リークレベルを極限まで落とすことと、CWモードではもう少し高い周波数で出力して目的信号からリーク成分などを離すことが必要に思われました。

対策の実践は連休後に行います。

追記:職業病なのか左右失認か右左間違えていたのでそれぞれ訂正しました。

2017年4月27日木曜日

mcHFのアンテナスイッチ

先日ブログにアンテナスイッチのPINダイオードを取り払って普通のリレーにするという改造を施すとスプリアスが抑えられた、というコメントをいただいたきました。

mcHFの送信部はファイナルからLPF、アンテナ端子まで常時繋がっており、受信部は送信部のファイナルとLPFの間から引っ張ってきて、下のアンテナスイッチ回路を介してフロントエンドに繋がります。


受信時はPINダイオードのD3がオンになりLPFに繋がり、送信時はD3がオフになってLPFへの経路が遮断され、入力もD4がオンになることでショートし送信波とのアイソレーションを確保しているようです。

PINダイオードはVHF帯などの高い周波数領域で使われることが多いです。周波数が低くなると信号の歪が大きくなり、扱う電力が大きいととくに歪むようです。

この話を聞いたときmcHFの高調波はPINダイオードで強調されているのかもしれないということは思いつきましたが、近接した不要輻射も低減したというのは予想していませんでした。

というわけでいきなりリレーに置き換える前に、まずはPINダイオード着脱前後で送信波をアッテネータを介してAPB-3スペアナで測定しました。

最初にダイオードをつけた状態で7MHz帯にて測定。


 高調波はいずれも50dBc以上抑制されていましたが、基本波の根元が異様に拡がっています。


拡大してスキャンすると約700Hz毎に不要輻射が発生していました。これらはほとんどが60dBc以上抑えられておらず非常にdirtyな信号です。ただ出力レベルを絞ると拡がりは少なくなります。これは下のダイオードを外した状態、それから前に一度測定してブログ記事で公開したものと同様の結果でした。

低い周波数帯でこのような傾向が強く、これはPINダイオードによる影響で信号が歪んでいるのではなかろうかと考えさせられます。

さていよいよ2つのダイオードを外し同条件で測定してみます。

PINダイオードを外しても送信部は繋がったままです

高調波領域では大きな変化は見られません。基本波の根元の拡がりはかなりおさまりましたがまだまだ拡がったままでした。


拡大してみるとダイオード装着時よりはマシになったものの、同様に約700Hz間隔で不要輻射が残っています。

設定メニューでは送信時のIQ信号の位相と振幅レベル調整項目があり、スペアナを連続スキャンしながら送信し調整してみたところ、不要輻射の柱の一部分だけ抑制されました(いわゆるイメージ波)が上の画像のように不要な波が依然として残っています。

自分の個体の問題なのかどうかは分かりませんが、 まだまだ電波の質としては充分良いとは言えない状況でした。

やはり各パート(PA、ミクサ、DAC等々・・・)に切り分けながら原因特定して改善する必要があります。

GW過ぎまでお預けにします^^;


2017年4月21日金曜日

ポケットサイズモノバンドCWトランシーバ派生版など

試作を重ねてきたポケットサイズモノバンドCWトランシーバは、7MHz版(VN-4002)のパーツを調達中で、あとデバイス1つの再入荷を待っているところです。これが調達完了すれば必要なパーツが揃うのでいよいよ頒布可能になります。

そんなわけで、次に派生版を少しずつ試作を進めることにしました。

まずは30m版VN3002です。

基板レイアウトはVN4002と同一です。他ハードウエアの変更点は、受信部フロントエンドの副同調回路の定数、アンテナ端子直下のLPFの定数、局発出力のLPF定数、それからE級ネットワークの定数です。

バンドが異なるので基板を色違いにしています
試作機を組み立てて、メインのE級ネットワークの調整です。

ドレイン電圧のセロボルト点が早すぎでスイッチング損失が明らかに増加しています
オシロスコープで観察したファイナル部のゲート電圧曲線(黄色)とドレイン電圧曲線(赤色)です。

ドレイン電圧曲線はFETオフ時正弦波上半分様の子を描きますが、計算した定数では共振周波数が高くてZVS動作になっていません。この状態で送信を続けるとFETがかなり熱を持ってしまい、かつ出力も少なくなります。当然出力波は歪みも強く高調波レベルも高くなります。

この場合はLか直列共振用か並列共振用の2つのCいずれかもしくは2つ以上を増やします。負荷インピーダンスは下がる傾向ですが、直列共振用のCを調整するのが経験上一番やりやすいです。

オシロスコープで波形観察しつつ直列共振Cを調整、結局計算値より100pF程度上乗せした値でほぼちょうどよいスイッチポイントとなりました。

ドレイン電圧のピークも上昇します(BS170のVDSSは60Vでちょっとギリギリっぽいですが^^;)
この調整により、出力はVN4002と同等程度を確保しています。連続送信でもFETはほんのり暖かくなる程度で放熱器は不要です。

次にスペアナで高調波のチェックを行いました。

出力波形のひずみは少なく7次チェビシェフLPFを通すことで高調波はかなり抑えられています
2次高調波が60dBc以上と良好な結果でした。
というわけで30m版もほぼ完成としました。

30m版の次は160m版です。160m版はLの値が大きく、また実用には5Wは確保する必要があるためRF部はVN4002やVN3002とは別に設計することにしました。かねてからE級プッシュプルを実験していましたが、この派生版に採用することにしました。

禁無断転載で
使用したPowerMOS FETはVDSS100V ID18Aのサンケン製FKI10531という電源用の石で、秋月で1個40円です。Cissが1530pFと非常に高いですがtd(off)13.7ns, tf6.0nsと高速であり、1.9MHzであれば充分使えると判断しました。オン抵抗も50mΩと低く、低インピーダンス負荷でもドレイン電流の上昇も抑えられそうです。

ゲートドライブはロジックICのインバータ3パラと高Cissを駆動するには少々心もとないですが、1.9MHzという低い周波数では何とか大丈夫そうでした。

秋月ユニバーサル基板タイプBに実装しました 余ったところに受信部を・・・入るかな?^^;
オフ時のリンギング多少気になります 対策検討中
LPFは他のVNシリーズと同様に7次のチェビシェフ型です。設計に近く急峻な特性で、2次高調波に相当する周波数(3.8MHz付近)では50dB程度の減衰量になっています。


最終的にLPF出力から減衰器を通してスペアナで送信波を観察しました。


出力は9V電源で約8W、入力電流1.1Aで効率は約80%、2次高調波は80dBc以上と充分すぎるくらいに減衰されています。プッシュプルなのでもともと偶数次高調波は低いため、LPFはもう少し次数下げても良いかもしれません。

電源電圧を12Vに上げると出力は10Wを軽く超えますが、今度は出力トランスやLPFコイルが暖かくなってきます。コイル損が主と考えるのであれば線材を太くするかコアを大きくするか検討が必要です。

ともかくユニバーサル基板に組んでみて比較的安定して出力を得られているのでこれをベースにして受信部などの構築へ進めます。

2017年4月17日月曜日

mcHFのmodificationと送信波スプリアスチェック

ここのところにわかにmcHFの話題があちこちで出てきているようで、本家キットのほうもしばしばout of stockとなっています。

components kit(いわゆる完全バラキット)はほんとうに作り甲斐のあるキットです。完成後の受信能力やフィーリングも予想していたよりもずっと良好です。今すぐにでもこれで運用していきたいことろですが、その前に送信波は一度測定しておかなくてはいけません。

またmcHFはVer.0.6というまだまだ開発途上のもので、様々なmodificationが上げられています。まずはそのなかから2点だけオリジナルから変更してみました。

オリジナルではドライブ段への電源回路にチップインダクタを採用していますが、直流抵抗が比較的大きく増幅率が足りないようで、特にハイバンドでの出力が少なく5Wまで届きません。

そこで、オリジナルのRFC2つを取り除き43材の小さなメガネコアにUEWを6回ほど巻いたRFCに付け替えました。

2つ目はファイナルのプッシュプルの出力回路ですが、出力トランスを1つにまとめて余ったコアでファイナル用のRFCとして巻きなおし取り替えました。

上のヒートシンク直下左の小さなメガネコアRFC右隣はファイナル用のRFC

これらの改造の結果出力はローバンドで最大10W以上、ハイバンドでも5Wは出るようになりました。

つづいて送信波をスペアナで確認しました。

44MHzあたりに見える柱は56MHzの折り返しと思われます
 50MHzまでのフルスキャンでは2次高調波が-56dBcほどでしたが、基本波の根っこがなにやら拡がっています。


1MHzスパンで観察したところ基本波±48,96kHz付近にスプリアスが見られますが、周波数の値からサンプリング周波数に起因するものかもしれません。

普通の受信機でモニタしても子供がたくさん聞こえます・・・
 さらに10kHzスパンにしてみると、740Hzの倍数で基本波周りにスプリアスを撒いています。PAバイアスをどのように調整してもほとんど変わりがなく、画像のように帯域外スプリアスは充分抑制されていないためこのままではアンテナに繋げて送信出来ません。

原因を調べないといけないわけですが、単に電源周りのデカップリング強化以外にもディジタル処理部分から処理後のアナログ部まで各セクションで切り分けて検証する必要がありそうです。

これは自分の個体だけの問題かもしれませんが、原因特定して対策法が見つかってから保証認定を申請しようと思います。

昔ならいざ知らずSDRやらスペアナも普及してきていますから、自作機はもちろんのこと海外キットとくにまだまだ改良を重ねている途上のものは送信波を一度確認して、もし問題があれば対応することは必要でしょう。